Terumi Morita
July 3, 2026·食の歴史·2分・約924字

江戸の醤油はどう「濃口」になったか——色で判断しない醤油の読み方

「江戸の味=濃口」は最初からではない。上方の下り醤油から、関東の地廻り醤油へ、江戸後期に濃口が優勢になる。味の主役が動いた歴史と、色・塩味・香り・うま味を分けて読み、入れる時機を選ぶ——醤油の使い分けの判断。

冷蔵庫にほぼ必ずある醤油。だが「江戸の味=濃口」は、最初からそうだったわけではない。江戸の醤油は、味の主導権が動いた歴史そのものだ。

江戸のはじめ、上方(関西)で造られた「下り醤油」が上等品として江戸に運ばれ、市場の中心だった。ある食文化資料では、1726年には江戸市場のおよそ76%が下り醤油だったとされる。やがて関東でも、野田や銚子を中心に「地廻り醤油」が発達し、江戸市場でしだいに置き換わっていく。1821年には、江戸に入った醤油のうちおよそ98%が地廻り——約125万樽のうち、上方産はわずか2万樽ほどだったとされる。江戸後期には、色が濃く香りの立つ濃口が主流になっていた。濃口が「最初からの江戸の味」だったのではなく、上方から関東へ、時間をかけて味の中心が移った——その順序が大切だ。

醤油は、大豆と小麦を麹と塩水で仕込み、麹菌に加えて乳酸菌や酵母が働くことで、長い時間をかけて色・香り・うま味が育つ発酵調味料だ。塩による保存と、微生物による発酵は別の働きで、醤油はその両方が組み合わさって生まれる。

ここから台所の話だ。醤油を「色の濃さ」だけで判断しないこと。色・塩味・香り・うま味は、それぞれ別のものだ。濃口は色も香りも強いが、塩辛さが最も強いとは限らない——むしろ淡口(うすくち)のほうが塩分は高いことが多い。そして同じ醤油でも、入れる時機で役割が変わる。早く加えれば、色と塩味は料理全体になじみやすくなる一方、加熱の時間が長いぶん、立ち上がる香りは弱くなる。逆に仕上げに加えれば、表面の塩味と醤油の香りを前に出せる。だから決めるのは「何mlか」だけではない——「何を残したくて、いつ入れるか」だ。

江戸の醤油が濃口へ移っていったのは、味覚が動いた記録だ。今の私たちにできるのは、その一本を色だけで決めつけず、塩味・香り・うま味を分けて読み、入れる時機を選ぶこと。醤油は「かける」調味料である前に、「読む」調味料だ。醤油の成り立ちは醤油千年の歴史で、発酵の管理はFermentation Notebookで。

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